岩手・木質バイオマス研究会は、木質バイオマス利用の普及を通じて、岩手の風土、地域性に根差した循環型社会の形成に資することを目的に活動しています。

設立:2000年7月5日

 【事務所】

住所:〒020-0861 盛岡市仙北1-14-20 

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この記事は林業新報に掲載されたものです。転載をご許可くださった林業新報社に御礼申し上げます。

◆2024年新年のごあいさつ 「次世代の人と森のための投資を増やそう」

岩手・木質バイオマス研究会  代表 伊藤幸男

  

 新年あけましておめでとうございます。旧年中は、当研究会の活動にご支援ご助力を賜りましたこと厚くお礼申し上げます。

 昨年は、3年間続いた新型コロナウィルス感染症対策の様々な制限が解除となり、どこか暗くなりがちな気持ちもようやく晴れやかなものとなりました。当研究会も、5月に「木を勉強する会」との共催で、地域内エコシステムの成果である、富士大学及び社会福祉法人 悠和会 銀河の里に導入された小型のチップボイラー等の視察を実施することができました。また、7月には本会の総会をコロナ前通り対面で開催し、会員の皆様と直接交流する機会を持つことができました。

 ところで、昨年の後半から年末にかけての大きな話題は、なんと言っても大谷翔平選手でしょう。日本人で初めてアメリカンリーグの本塁打王を獲得し、2度目のMVPを受賞しました。しかも、満票で2度の受賞はメージャーリグ史上初の快挙でした。さらに、全国2万校の小学校に計6万個のグローブを贈ったり、年末にはドジャースとの史上最高額の契約による移籍など、球界以外も巻き込んだ大きな話題となりました。

 さて、このような大谷選手の活躍で、野球界はさぞかし盛り上がるだろうと思われるかもしれませんが、実際はその逆で、今後大谷選手がどんなに活躍しても日本の野球人口は増えることはないということを書かねばなりません。お気付きの方も多いかと思いますが、高校野球の地区予選では複数の高校で編成する連合チームがその数を増やしています。1校ではチームを作れないほど部員が減っているためです。これは中学校の野球部も同様です。小学生のスポーツ少年団では、廃部や統合などが進んでおり、チーム数が減少しています。私の住む雫石町では、10年前に4つあったチームが、昨年にはとうとう1つになってしまいました。野球の抱える問題があるとはいえ、子どもの数がどんどん減っているという、避けられない現実があるからです。例えば、2022年の雫石町の出生数は48人でした。ちなみに、10年前の2012年は105人です。48人のうち半分が男の子だとして、そのうちの1割が野球をやるとしても2~3人です。女の子が同じぐらい野球に参入してくれるといったことでもない限り、1チームを維持するのがやっと、という現実が見えてきます。

 そもそも、この「少子化」という現象をどのように理解したらよいでしょうか。かつては、農山村の過疎化に伴う1つの現象であり、産業や所得の格差によって生じるものと理解されていました。しかし今日では、「少子化」は農山村に限らず、都市部においても進んでいる共通の現象です。日本では、子どもを産み育てるということが難しくなっていると言うことです。原理的な話しになりますが、資本主義経済では、「労働」が「価値」を生み出す源泉ですので、「労働力」を維持しなければなりません。「資本」は賃金を低く抑えたい一方で、労働者が生きていけるだけの賃金を支払う必要があります。加えて、将来の「労働力」を確保するためには、労働者が家族を養えるだけの賃金を支払うことが必要となります。こう考えると、現在の日本は、労働者が生き延びるのがやっと、という状況なのかもしれません。

 こうした状況を象徴しているのが、日本の平均収入が約30年間に渡って停滞していることです。それは、1997年をピークに1990年代の初頭と変わらない水準で推移しています。これに対してアメリカは日本の2倍、ドイツは1.5倍とその差が拡大しました。また、2015年には韓国にも追い抜かれたというニュースは大きく報じられました。

 その背景となっているのは、1985年のプラザ合意以降の円高ドル安に基づく経済の国際化にあります。加工輸出型の産業構造の転換がうまくいかなかったこともありますが、資本にとって日本の労賃が国際的に高いものと映り、1995年には経団連が非正規社員の活用を提唱するなど、グローバル化した資本による賃金の引き下げ圧力が一層強くなったことがあげられます。またこれに呼応して、小泉政権下の1999年に派遣労働法が改正され、派遣対象が実質自由化されたことにより、中産階級の解体と非正規雇用の増大、低賃金の定着が進みました。その結果、「ワーキングプア」や「子どもの7人に1人が貧困」といった、生き延びるのがやっとという階層が新たに生じているのです。子どもを産み育てることのできない社会とは、厳しくいえば、「国民を消化」する社会経済ということができるかもしれません。

 同じ視点から、森林・林業はどうでしょうか。国産材の生産量は、最近20年間は増加に転じており、「来たるべき国産材時代」が到来したかのように見えます。しかし、山元立木価格は1980年をピークに下落し、最近20年間は1960年代の水準で低迷しています。それに伴い、林業従事者の賃金水準も低いままです。また、再造林が進んでいません。林野庁によると、主伐面積に対する人工造林面積は3~4割程度で推移しているとしています。森林においても、「少子化」というべき状況が生じており、「森林を消化」する林業となっているのです。

 現在、政策課題となっている再造林について、どう考えたらよいでしょうか。1000万haもの人工林を今後とも維持する必要があるでしょうか。今後日本は、人口が減少し木材需要も減少するので、人工林は減らしてよいという考えがあるでしょう。また、造林・保育を担う従事者が不足しており、労働力に合わせた水準でしか造林できない、という考え方もあるかと思います。しかし、近年の造林面積は年間3万haほどで推移しており、この水準で100年造林しても300万haにしかなりません。将来の世代に手渡すギフトとしてこれが十分なものなのでしょうか。今の問題を解決しようとする一方で未来の問題についても深く配慮する、という視点を、我々、森林・林業に携わる者は常に持たなければならないと考えています。

 昨年、2020年の国勢調査に基づいた日本の将来人口推計が発表されました。現状の出生率1.36を前提とすると、50年後の2070年の人口は8,700万人となり、14歳以下の人口は半減して797万人と予想されています。出生率はしばらく2を超えそうにないことから、100年後も人口は増加に転じることはなさそうです。そうであるならば、今、若い世代や未来の世代に対して、できることは躊躇なく取り組む必要があるはずです。森づくりも同様に、十分な造林投資が今こそ必要だと思われます。それと同時に、志を持ち高い技能を習得した若い林業技能者の期待に背かない十分な賃金を実現しなければならないでしょう。人も森も、今、生み育てなければ、未来に存在しえないからです。

 私たちは、木質バイオマス利用が地域社会や森林・林業に貢献できることを願って活動していますが、母体となるそれらが大きな危機にあるのではないかと憂えています。当研究会が出来ることは限られておりますが、1本1本木を植えるがごとく、地域の小さな取り組みが1つ1つ根付くよう本年も活動を続けていきたいと思っております。引き続きご支援ご助力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

 

◆いわて木質バイオマスエネルギー利用展開指針(第3期)が策定されました。

 

岩手県では、木質バイオマスエネルギーの利用促進に向けて、これまでの取組期間における成果や課題を整理するとともに、社会情勢の変化を踏まえながら、「いわて県民計画(2019~2028)」第2期アクションプラン(政策推進プラン)における「再生可能エネルギーの導入促進」に関する推進方策等のうち、木質バイオマスエネルギー利用促進の展開方向を示すものとして、「いわて木質バイオマスエネルギー利用展開指針(第3期)」を策定しました。

詳しい内容は岩手県のホームページをご覧ください。

◆ 燃料用木質チップの生産・流通に関する提言

1. 目的

 この提言は、熱利用を中心とした木質バイオマスエネルギーの主軸となるチップボイラーをさらに普及させるために、水分率等の品質に応じた燃料チップの生産及びその円滑な流通を促すことを目的としています。

 

2. 背景及び課題※

①岩手県はいち早くチップボイラーの導入が進みましたが、東日本大震災後導入が加速し、現在49台に至っています。

②その結果、熱利用に供される燃料チップは2010年の1,592BDtから2015年の8,526BDtへと5.4倍へと急増しました。

③チップボイラーの民間施設への導入が増加したり、チップ供給事業者も森林組合以外が増加するなど、その担い手が多様化しました。

④その結果、ボイラーと燃料チップのミスマッチが起き、導入施設でトラブルが起きたり、チップ供給者の負担が増したりするなどの事例が確認されました。

⑤燃料としてのチップは、水分率が低いこと、すなわち発熱量が大きいほど高い価格で取引されるべきですが、ほとんどの事例で発熱量の大小を評価し価格に反映させることなく、任意の価格で取引されていました。また、価格の基準となる根拠を理解している事業者はほとんどいませんでした。

※遠藤元治氏(本会会員)の研究成果より。

 

3. 提言

【提言1】

燃料チップの品質(=水分率=発熱量)を価格に反映させた取り引きを促すよう、需給双方への情報提供と合意形成を支援する。

 水分率の低い(M45以下の)燃料チップを供給するためには、何らかの乾燥工程が必要となりコストが掛かり増しになることから、発熱量をベースとした、需給双方が納得できる取り引きに転換していくことが求められます。また同時に、水分率を管理できる燃料チップの供給業者を育成していくことが求められます。

 

【提言2】

発熱量をベースとした取り引きのためには、精度の高い簡易な水分計が不可欠であるため、そのような水分計の導入を促進する。

 これまでも、簡易な方法で水分率を推計してきましたが、樹種が異なったり混じったりすると対応しにくいという問題がありました。水分率を把握することで、価格形成だけでなく、需給双方で水分率の季節変動へ対応できるようになるなど、様々な利点が生まれます。また、地域でどのような品質の燃料チップが供給可能か把握することは、チップボイラーを導入する際の重要な前提条件となるため、チップの水分率の把握は最も重要な事項です。

 

【提言3】

 チップボイラーを導入する際は、その構想・設計段階から、燃料チップ供給を担う候補者と十分な意見交換をおこなう機会を持つよう促す。

 地域で燃料チップを供給できる者は実際には多くなく、どのような品質のチップをどれぐらい供給できるかは、チップボイラーを導入する前にある程度把握することが可能です。しかしながら、チップボイラーの導入が決まったあとで供給業者の選定が行われることが多く、望まれる品質の燃料チップが確保できない、あるいは供給業者に負担を強いるということが起きています。この点からも、【提言1】及び【提言2】に基づき、事前の調整が重要となります。

 

【提言4】

 チップボイラーの運用、燃料供給に関わる事業者の横断的な情報交換の場を設ける。

 燃料チップは地産地消的に地域内で供給されることがほとんどで、一対一の関係で取り引きされることがほとんどです。そのため、岩手県でこれほどの導入事例があっても、どのような問題が起きているのか、どのような工夫がこらされているかなど、情報を共有する機会がありません。これまでの経験が生かされるよう、事業者の横断的な情報交換を行ったり、勉強会を行う場が必要です。

2017年9月

 

この提言について会員からは次のような意見が寄せられています。

○気仙沼の「気仙沼地域エネルギー」が行っているバイオマス発電でも チップの水分含有率の想定違いによる問題が過去に生じた。

プラントはドイツ製で、あちらではチップ材はカラマツ系で、こちらのスギ系で運転したところ自然乾燥が困難となる冬場に燃料不足となった。乾燥設備の追加を行い現状は良好となっている。

やはり、今後検討される方には最初から必要な情報だと思う。

 

○かつてスギの材を乾燥するのに苦労した経験がある。今年はチップを乾燥して社会に提供する元年になる。このことを岩手から日本中に発信することが大切だと感じた。乾燥したチップを作るためのインセンティブとして何ができるかの戦略を考えることが必要だ。

 

○天然乾燥のためにヤードごとにそれぞれノウハウを持っている。それらの蓄積は岩手の財産だと思う。燃料用チップは相対取引であるが、お互いにバイオマスエネルギーの可能性に関心を持ちサスティナブルな価値を見出している所が、石油のような価格だけで取引しているのと違う良さだと思う。

 

○乾燥チップについてデータがあれば付加価値が付く。あまり細か過ぎてはいけない。石油との比較で相手に納得感があれば評価される。

 

○乾燥チップが供給できるようになると、小型で安いボイラーが導入しやすくなり、普及の幅が広がる。

 

○水分管理をきちんとしたチップが供給できれば納入先が多角化し供給を増やすことができる。製紙用チップが今後伸びることは考えにくく、チップ業者が年間を通じたなりわいをつくっていく必要がある。

◆2011年に行った政策提言(要旨)

◆◆◆基本方針◆◆◆
  ・再生可能エネルギーに対する自治体の明確な姿勢が必要。
  ・地域が自立化していくことを重視し、地域住民の主体的な選択と地域資本の育成を促すことが重要。
  ・小規模分散型の熱利用をまず重視する。その経験の積み重ねの先に大規模な発電がある。
  ・地域ごとの特徴に配慮した、技術水準と資本規模を慎重に見極める必要がある。

  地域住民が管理・運用できる、安定したローテクが重要。
  ・木質バイオマスの根幹である、林業が活性化し安定していくことが重要。

  他との競争ではなく、新たな価値を創造し自ら価値実現できる範囲を少しずつ広げていくこと。


◆◆◆主な提言◆◆◆
 ・ 実践過程において、企業同士や消費者、地域住民の情報交換の場をつくる。
  ・補助金に依存しない、緩やかな規制や優遇措置等の施策を導入。
 ・ 木質バイオマス利用が森林経営の持続性に寄与するための制度を確立する。
 ・ 復興に際しては、再生可能エネルギーへのモデル地域をつくる。
  ・木質バイオマス利用は半径30キロ程度を目安とした範囲内で生産と利用の仕組みを構築する。
  ・エネルギー効率の高い住宅建築の推進と小規模分散型の熱供給システムの推進。
  ・地域資本を育成する観点から、民間ファンド、地元金融機関の協力関係を促したり、自然エネルギーへの投資を円滑にするための枠組みの構築が必要。
  ・木質バイオマスを中心とした熱利用、熱政策を重点的に進める。発電は当面、風力や太陽光で。
  ・ペレットの県内自給率を上げるための対策が必要。

詳しい内容は「資料」の中の「政策提言」のページからダウンロードしてご覧ください。